北の村の話。ある夜、鬼火が一つでた。翌日、2つに増えた。更に翌日、5つに増えた。不規則に増殖を繰り返して、135までに増えた。
向こう見ずな村の若者が数人、鬼火が出る場所に行った。村からみたら彼らのいる場所だけ鬼火が消えていた。
村の学者が言った。
「鬼火が出る場所に人がいれば消えるなら、全員で手分けして鬼火の出る場所に行ってみたらどうか」
なるほどと頷いて、村人は手分けして鬼火の場所へ行った。
その夜、留守になった村から金品が根こそぎ持ち去られていた。もちろん、学者もいなくなっていた。
西の村の話。北の村に鬼火が出たあと、空き巣が出た。西の村にも、鬼火が灯った。人々は戸締りを固くした。鬼火は増えた。益々戸締りに気をつけた。戸締りに気をつけすぎて、火の始末がおろそかになった。そして火事が起きて全戸焼けた。生き残った人は無一文でどこかに消えた。
南の村の話。近隣で鬼火が出た。泥棒が出て、火事が起きた。その村にも鬼火が出た。火の始末と戸締りに気をつけ、お祓いもした。鬼火は増えた。消えることはなかった。重苦しい雰囲気が漂った。犬の遠吠えにすら跳ね起きるようになった。火を使わずに生活する家も出た。
皆、いっそなにか不幸が起きてほしいと願うようにすらなった。
重圧に耐えかねて、一人また一人とその村から人は去っていった。そうして南の村は消えた。
東の村の話。不吉とされる鬼火が出た。翌日、そこに村人が行って鬼火の下を掘り返したら、されこうべが出た。念入りに弔った。鬼火は消えた。
翌月、廃村になった西の村と火事で焼けた南の村の生き残りと泥棒に全部持っていかれて食い詰めた北の村の人々が山賊になって襲ってきた。
東の村人は全員殺された。役所が山賊に懸賞をかけた。北の村にいた学者は、役所は山賊のいうことなど信じまいとたかをくくって、山賊は元の村と南と西の村人であろうと訴え出た。
そのとおり山賊は縛り首になった。
ある乞食の話。彼は腕のよい大工だった。棟から落ちて、片腕と片足をなくして乞食になった。
食い詰めてたどり着いた北の村で、飯を乞うたら断られ、学者からは盗人の疑いをかけられた。次の西の村では、女に固く扉を閉められ、男からは松明でおいやられた。その次の南の村では、彼が話しかけても、誰も答えなかった。最後に行った東の村では、叩きのめされた。叩かれた傷が元で彼は死んで、されこうべになった。その翌月から、鬼火が灯った。
一方、学者は山賊の訴えから盗賊とされ、片腕と片足を切られて乞食になった。役所は山賊の言うことを口実に、
学者 の財産を取り上げたのである。
乞食となった彼の行方は誰も知らない。
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